メルクリン入門

まずは実際に見てください

言葉で説明する前に、実際のメルクリンを見てもらった方がわかりやすいと思いますので、まずはいくつか動画をご覧下さい。

これは私のレイアウトを走るメルクリンです。

全部見なくてもいいです。
ざっくりと、部屋全体の大きなものから、窓際や棚の小さなものまで。
情景(ジオラマ)があっても、なくても。
固定式でも、お座敷にレールを置いただけでも。
様々な場所や形態に合わせて、好きなように列車の模型を走らせることが出来る。
それがメルクリンです。

機関車1台からスタートして、長く、少しずつ遊べる

いきなりたくさん買って、お金をかけて多数の車両を揃える必要はありません。

最初は1台の機関車から。
スタート用の線路、列車、コントローラーがセットになった商品(デジタルスターターセット)もあります。

車両をそんなに増やさなくても、音を鳴らしたり、煙を出したり、信号機を付けて列車を止めたり、照明や演出をしたり、自動運転をしたりと、やれることは山ほどあります。

線路1本、列車1台でも、たくさん、長く、少しずつ、ずっと遊べるのです。
私はもう20年以上遊んでいますが、車両を買い足し続けなくても、全く問題ありませんし、次々と新機能や出来ることが進化して、増えていきますので、飽きません。
その気になれば、一生遊べる趣味だと思います。

具体的にこちらのお店のページに、私のメルクリンの遊びの歴史が掲載されています。
1台の機関車から始めて、鉄道博物館の鉄道模型ショーを超えるまで。
これが、自宅で、大きな固定式のレイアウトを作らなくても、誰でも、できるのです!

メルクリンはドイツの鉄道模型

「メルクリン」という言葉は、普通はほとんど聞いたことがない単語だと思います。私も全く知りませんでした。
「メルクリン」はドイツにある鉄道模型を作っている会社の名前です。歴史は大変古く、創業してから150年以上になります。最初は鉄道模型を作っていたのではないようですが、そのうち様々な鉄道模型をラインナップするようになり、現在では欧州市場ではシェアNo.1です。
日本では知名度はほとんどないのですが、ヨーロッパやアメリカでは有名な世界的な鉄道模型メーカーです。

鉄道模型は、もともとは産業革命で誕生した本物の鉄道を、一般の人にわかりやすく紹介する目的で作られたものが最初ではないかと言われています。
現在では数多くの種類が発売され、子供から大人まで楽しめる趣味として普及しています。特にヨーロッパではキングオブホビーなどと表現されることもあります。
日本では線路幅が9mmの『Nゲージ』が代表的で人気があります。最近では屋外で走行するような大型の鉄道をガーデニングとともに楽しむ人も増えているそうです。

どこまでを鉄道模型と呼ぶのかは正確には知りませんが、屋外用の大型モデルの中には、自分で乗ることができたり、本物の蒸気機関車を走らせたりしている人もいます。
また、有志の方が廃止になった本物の線路を買い取ったり、整備したりして、実際に列車の運行を行っているような路線もあります。そこまでいくともう模型ではなくて本物ですね。

メルクリンの鉄道模型には、縮尺が小さい方から順に、Z、HO、1番という3種類のラインナップがありますが、それぞれ特徴が異なっています。
Zは線路幅が6.5mm、縮尺は1/220で、手のひらに乗るほど小さな模型です。
HOは線路幅が16.5mm、縮尺は1/87で、世界で最も標準的な大きさの鉄道模型です。風のおひるね鉄道王国ではこのHOの走らせ方をメインに紹介しています。

1番は線路幅が45mm、縮尺は1/32で、かなり大型の鉄道模型です。かなり広いスペースを必要とするので、自宅ではちょっと難しいかもしれません。

メルクリンHOは、Zや1番と比べて、大きくシステムが異なっています。また、他の鉄道模型のシステムとも大きく異なっています。
例えば、見た目に一番わかりやすい違いのひとつとしては、メルクリンHOでは線路のレールの数は2本ではなく3本あります。
ですので、他の鉄道模型の車両は同じHOであっても物理的に走れないのです。
メルクリンHOに関することは、Zや1番、他の鉄道模型には適用できないことばかりです。

以後、このサイトでは、メルクリンHOのことを、単に『メルクリン』と表記します。
このサイトに書いてあることは、Zゲージや1番、NゲージやDCCなどの他の鉄道模型では実現できませんので、ご注意ください。

メルクリンは走らせて遊ぶのに最適な模型

メルクリンの特長を一言で表現するとしたら列車を走らせて遊ぶのに最適な鉄道模型であると言うことが出来ると思います。
他の鉄道模型と構造が違うのも、一見特殊な方式を採用しているのも、理由はすべて簡単にたくさんの列車を走らせることができるシステムを構築してきたためなのです。

個人的には、鉄道模型をがんがん走らせて楽しむのでなければ、メルクリンを選択する理由は特にないと思っています。
また、走らせるとしても、部屋に1周の円形のレールを敷いて、1編成の列車だけを入れ替えて走らせるような走らせ方の場合には、Zや1番、NゲージでもDCCでも、遊び方にはそんなに大差はありません。
しかし、とにかくたくさん列車を走らせたいとか、1周の線路が敷けないような狭いスペースにも列車を走らせたいとか、そういう場合には、メルクリン以外の選択肢はないと言ってもいいほど、メルクリンは走行性能に関してはダントツに優れていると思います。
つまり、自宅にいながら鉄道博物館のようにレイアウトにたくさんの列車を走らせてみたい。そんな遊び方がメルクリンに向いているのです。

このことは決してイメージと知識だけで言っているのではありません。
私はメルクリンに出会うまで、日本で手に入るほとんどすべての鉄道模型を実際に購入して走らせて遊んでみました。Nゲージ、DCC、日本型16番、Zゲージ、1番ゲージ、On30などの各種ナローゲージ、プラレールやBトレインショーティーなど、一通りの鉄道模型で遊んでみたのです。
それこそ相当な時間と費用を費やして分かったのは、まとめて鉄道模型と言われていても、それぞれに遊び方の向き不向きがあるということです。
例えば、Nゲージなどは縮尺は多少おかしい点もあるのですが、様々な軌道幅が混在する日本の鉄道事情を踏まえた上で、リーズナブルに模型を楽しむという点では向いていると思います。
そういう意味では、車の模型に例えて言うと、飾るのではなくラジコンのように走らせて遊びたいのなら、絶対にメルクリンです。システムとして昔から走行することを前提に作られていますので、メルクリンでなければできない走らせ方がたくさんあるのです。

はっきり言って走行性能に関しては、メルクリンHOは、他の鉄道模型(Zと1番を含めて)とは桁や次元が違います。少し違う程度ではなく圧倒的な性能差です。
それはこのサイトに書かれていることを読んでもらえればわかると思います。メーカーから発売されている純正品だけで、ここまでできる鉄道模型はありません。

もちろんメルクリンでも、車両のコレクションをしたり、ジオラマを作ったり、走らせなくても遊べます。
それでも、せっかくメルクリンを買ったのなら、少なくともこんな風にして走らせることができるんだよということは知ってもらいたいなと思い、このサイトを作りました。
このサイトもリニューアルする前は、ごく普通の鉄道模型の趣味のサイトでした。でも、そういうサイトは他にもたくさんありますので、風のおひるね鉄道王国では、メルクリンを走らせることに特化したいと考えました。
私はすでに20年以上メルクリンを走らせて遊んでいます。その間にもメルクリンは日々進化し、走りの能力はどんどん強化されています。そして、今も進化を続けている鉄道模型なのです。

このサイトには、20年以上かけて試行錯誤してきたノウハウのほぼすべてを詰め込んでいきたいと考えています。
初心者の方からベテランまで。あなたのメルクリンを走らせることに、少しでもお役に立てれば幸いです。

メルクリンの魅力

よく走る

メルクリンは、とてもよく走ります。
よく走るとはどういうことかと言うと、まず滑らかに安定して走ります。
機関車をレールに乗せて速度を指示すると、ロケットスタートではなく、ゆっくり発車して徐々に加速していきます。指定された速度に達すると、そのまま同じ速度で安定して走り続けます。

途中に勾配(坂道)があっても、登りも下りも速度は変わりません。機関車が自動で指示した速度を保ち続けて走ります。
たくさんの貨車や客車を連結しても大丈夫。普通のサイズの機関車なら10両程度なら全然平気です。中には1台で100両以上牽引できる機関車もあります。

何時間でも走り続けることが出来ます。
私の家では、同じ機関車を朝からずっと走らせていて、そのまま夕方から夜になったことが何回もありますが、1度も脱線せず、壊れもせず、トラブルなく走っている場合がほとんどです。
逆に、数年間1度も走らせていなかった機関車を、久しぶりに箱から出して走らせてみたところ、普通に走りました。最初はぎくしゃくしていた機関車もありましたが、何周か走っているうちに正常に戻ったこともありました。

信号機を赤にすると、自動的に停車します。
ライトを点けたり、汽笛を鳴らしたり、様々な音を出したりすることが出来ます。蒸気機関車(SL)だと煙を出すことが出来る機関車もあります。
コントローラーの画面にCGの運転席を表示して、実車同様にレバーを触って運転したり、燃料や水や石炭を、所定の場所で補給しないと燃料切れを起こしたりする設定ができる機関車もあります。

たくさんの列車が走る

1台のコントローラーと1箇所の給電配線だけでも、複数の列車を個別に走らせることが出来ます。
1本のレールだけでも、複数の列車を乗せておき、同時に走らせることも、順番に動かすこともできます。

列車を複数持っている人は、1人でそれを全部走らせることも、好きな編成だけ操作して他はコントローラーに自動運転で任せて走らせることも、何人かの友達でコントローラーと列車を分担して運転することも、メーカー純正のコントローラーだけで全部できます。パソコンの専門運転ソフト等は不要です。

ポイントや信号機の切り換えも同じように、自分で操作することも、友達と分担することも、自動に設定することもできます。
お手持ちのスマートフォンをWiFi経由でシステムに接続して、コントローラーにして列車を操作することも出来ます。

急カーブを曲がれる

HOは1/87というスケールの規格です。手で掴むとちょうど良い大きさです。
Nゲージよりも大きいですが、プラレールの車両を長くしたような感じです。
しかし半径360mmの急カーブを、基本的にすべての車両が確実に安定して問題なく曲がることが出来ます。

半径360mmのカーブとは、約75cm程度幅でレールを1周させることが出来るカーブです。
1メートルの幅があれば複線の線路を1周させることが出来ます。
メルクリンの車両は基本的にすべての列車がこのカーブを問題なく通過できるように作られていますので、8両編成のドイツの新幹線ICEでも、10両編成のフランスの新幹線TGVでも、難なく急カーブを走行することが出来ます。

1メートルの幅がなくても、直線だけでも自動で往復運転することもできます。
山手線のような環状のレールにしなくても、端から端まで走っていってまた戻ってくるという運転をすることができるということです。
途中の駅に一時停車させることもできます。

ライトが点き、音が出て、煙も出る

ライトや尾灯、室内灯を点けることが出来ます。
ライトはじんわりと点灯させたり、フラッシュさせたり、光り方を設定することもできます。

サウンドも鳴らせます。
汽笛や駅のアナウンスなど様々な音が出ます。
走行音は列車の動きと同期していますので、駅に停まっていたSLが、ブシューッと蒸気音を吐き出して、シュッ、シュッと動きだし、シュシュシュと加速していきます。
減速すれば音は静かになり、急ブレーキをかければキキーッとブレーキ音が鳴ります。少し停まっていると石炭をくべる音が聞こえてきたりもします。

SLは発煙装置を組み込むことによって、煙を出すことが出来ます。
専用の燃料を煙突に入れておくと、ぽっぽっと白い煙を出して走ります。実は匂いも石炭っぽい感じがします。

他にも、室内の人が動く車両、クレーンのアームを動かせる車両、ドアにディスプレイが組み込まれていて動画で開閉できる車両、パンタグラフを昇降させることができる車両など、多彩な機能を楽しむことが出来ます。

メルクリンの仕組み

メルクリンは電気で走る

メルクリンは電気で走っています。
見た目はディーゼル機関車や蒸気機関車もありますし、中には煙を出しながら走っている列車もあるのでよく質問を受けるのですが、SLやディーゼルも含めて、全ての列車がレールから電気を取り入れて、列車内にあるモーターを回すことによって走っています。

メルクリンは見た目はどうであれ、すべての車両が『電車』なのです。

鉄道模型ではレールから電気を取り込んで走るため、必ず電源からレールへの配線が必要になります。
また、車両はレールと接触している車輪を通じて車内に搭載されたモーターに電気を供給しています。そのため、車輪がレールから外れると列車は止まってしまいます。
つまり鉄道模型を走らせるためには、常に安定してレールから電気を供給し続ける必要があるのです。これは大変重要なことです。

鉄道模型の違いは、よく線路幅と縮尺で説明されます。要するに大きさと線路の幅の違いです。
しかし実際には、他にも性能に関する多くの違いがあります。
その中でも『走らせて遊ぶ時に重要な点』が、運転の制御方式と集電方式の2点です。

メルクリンHOはデジタル鉄道模型

メルクリンHOの運転の制御方式はデジタル方式です。
ちなみに同じメルクリン製の鉄道模型でも、Zはアナログ式、1番はHOと同じくデジタル式になります。

かつては鉄道模型は全てアナログ式で走っていましたが、現代では時代と技術の進歩で、デジタル式が普及するようになりました。
残念ながら、日本ではデジタル式の鉄道模型をサポートしているメーカーはごく少数です。しかし、世界的にはデジタル式は多く普及していて、メリットも圧倒的に多いのです。

日本はITやロボットなどでは最先端のイメージがありますが、意外なことに鉄道模型のデジタル化では大きく遅れていると、個人的には思います。
日本では実際にデジタル鉄道模型を目にしたり、運転する機会が少ないため、誤解されていることもあります。
デジタル式とアナログ式では機器が異なるだけでなく、走行に関する概念や操作も全く異なります。
はじめにデジタル鉄道模型の特徴を、アナログ式との違いを比較しながら説明します。

アナログ式の鉄道模型の仕組みは、豆電球を点灯させる単純な電気回路と同じです。
電源からの電気をレールに流します。このレールに流れる電気の量を、コントローラーで電圧を変えることによって調整して、機関車の走る方向や速度を調整します。
図のように、豆電球が機関車に相当しているわけです。
電圧を上げると豆電球がより明るく光るように、機関車のモーターが多く回って速く走ります。

アナログ式ではレール全体の電圧を変えて列車を運転しているため、電気的に繋がっている同じレールの上には1台の列車しか置けません。どんなに大きなレイアウトを作ったとしても、電気的に繋がっている区間には1台の列車しか存在できないのです。
もし、複数の列車を置いてしまうと、それらはすべて同じ動きをすることになってしまいます。個別には運転できません。

列車を豆電球に置き換えて考えるとわかりやすいと思います。
電線に相当するレールが繋がっていると、手元のコントローラー(変圧器)で電圧を変えた時に、すべての豆電球の明るさが連動して変わってしまいます。
アナログ式で同じ線路上で別の列車を止めておくには、その列車がいる部分だけを電気的に分離する必要があります。

デジタル式では列車にはロボット運転士が乗務している

デジタル式では動力車両には運転士さんに相当する『デコーダー』というICチップが搭載されています。
電圧を変えるコントローラーの替わりに、運転士さんであるデコーダーに指示を送出するコントローラー(コマンドステーションなどと呼ばれています)を使って、レールを介してロボット運転士さんに走行指示を伝えて運転します。

アナログ鉄道模型では、電圧をコントロールして直接列車の動きを制御するのは、コントローラーを握っている『人間』ですが、デジタル鉄道模型では、列車のモーターを直接回しているのはロボット運転士である『デコーダー』です。
アナログ式では操作する人間は『運転士さん』に相当しますが、デジタル式では操作する人間は『運転士さんに指示を出す運転司令室員』のようなイメージです。
同じように豆電球で考えてみましょう。

豆電球1個に1個に電灯をオンオフしたり、明るさを調整するデコーダー(ロボット係員)が付いています。
信号は電球ではなくデコーダーに送られて、デコーダーが電球を制御します。

デジタル式では、電力だけでなくデジタル信号も同時に送る必要があるため、レールに交流の電気を流しています。交流の電気では信号を電気に混ぜて送信することができるためです。
コントローラーから発信された命令信号は、電力と一緒にレールを伝わって各列車に届きます。
例え列車が停止している時であっても、レールには常に最大の電圧がかかっていますから、列車が動いているいないに関わらず、ライトをオンオフしたり、サウンドを鳴らしたり、煙を出したりといった機能がいつでも自由に使用できます。

デジタル式では1本の線路の上にたくさんの列車を置いておくことが出来る

デジタル式の運転は、現実の鉄道に置き換えて考えると理解しやすくなります。
現実の鉄道では、1本のレールの上に複数の列車が存在していることはごく当たり前です。
ものすごいローカル線でもない限り、線路上にはたくさんの列車が存在しています。ものすごいローカル線でも、走っている列車の他に停まっている列車や待機している列車などは存在していることが多いです。

仮に、アナログ方式の運転で山手線を走らせたとすると、すべての列車が同時に走り出して同時に停車してしまいます。走っている時の速度もみんな同じです。
これに対してデジタル方式では、現実の山手線と同じように個別に列車を制御することが出来ます。複数の編成をそれぞれ引き込み線に分けて止めておかなくても、縦列駐車のように止めておいて次々と列車を入れ替えて遊ぶことも出来ます。
つまり、デジタル鉄道模型の方が本質的に、少ない線路の上にたくさんの列車を置いておけるということになります。
スペースを節約できるということも、動きのバリエーションが豊富になるということも、デジタル鉄道模型の方が有利な点です。

デジタル鉄道模型の運転操作は運転指令室員のようだということは、運転士の操作だけでなく、鉄道を運行する様々な仕事のうち、自分が好きな部分を人間が操作することができるということです。そして人間が担当しない操作は、コントローラーが自動で代行してくれます。
運転士ごっこをして遊びたければ、いつでも好きな列車の運転士になってその列車を運転することが出来ます。自分が運転している間は、同じレイアウト上を走る他の列車の操作や、信号機・ポイントの切換などはコントローラーに任せることが出来るので、より運転操作に集中できます(もちろん全てを手動にすることも出来ます)。
反対に列車の運転をコントローラーに任せて、自分は信号機の切換やポイントの切換だけに集中することも出来ます。または、駅のアナウンス放送を流すことを担当する、保線だけをやってみるなど、鉄道に関わる様々な職業になりきって遊ぶことができます。

ちなみに私は保線はけっこう好きです。やってみたら意外と楽しいのです。
現実の保線会社にも見学に行ったりしてしまいました。
鉄道模型でも列車が安全に正しく走行する根本を担うのは保線です。保線あっての走行だなと、メルクリンを走らせることで実感できました。

デジタル方式は決して難しいわけではなく操作は簡単です。例えば、全自動運転の場合には全く何も操作しなくても済みます。
運転操作でも、ワンタッチで走らせる方法から、実車同様の手順を踏んだ操作まで、好きな操作方法を選択することが出来ます。
操作が簡単でなければ、複数の列車を制御することはとてもできません。機能は多いですが、そのすべてを知っている必要はありませんし、知れば知るほどできることが増えて楽しくなります。

本物の鉄道と同じような電気の仕組み

レールから列車に電力や信号を取り入れる仕組みを、集電方式と言います。
メルクリンでは3線式と呼ばれる集電方式を採用しています。
3線式とはその名の通り、レールが3本ある仕組みのことです。

3線式を採用している模型は極めて少ないです。
同じメルクリンでもZゲージと1番ゲージは2線式です。NゲージやDCCなど多くの他の鉄道模型でも2線式を採用しています。
つまり、3線式を採用しているということが、メルクリンHOが他のシステムと互換性がなく、大きく仕組みが異なっている最大の原因とも言えるのです。
そして同時に、この3線式こそが実は『走らせるためには非常に有利な仕組み』なのです。

3線式の鉄道模型で遊んだことがある人は少ないのではないかと思います。特に日本ではそうでしょう。
そのため3線式については、レールが3本あるんだ程度の認識しかされておらず、メリットについては理解されていないことが多いのが現状だと思います。
そこで、ここは特に詳細に説明しようと思います。

3線式と2線式の違いの図です。
2線式は左右2本のレールからそれぞれ電気を取り入れています。
それに対して、3線式は中央の1本のレールと、左右の2本のレールが対になっています。

左右2本のレールから集電することのデメリット

鉄道模型は電気の力で動いているので、最低限プラスとマイナスの2本の線が必要です(これも豆電球と同じですね)。この2本の電線の役割をしているのがレールです。

2線式では左右のレールを、それぞれプラスとマイナスとして使って集電しています。
正確にはメルクリンやDCCなどのデジタル鉄道模型では、レールには交流の電気が流れているため、プラス極とマイナス極という概念はありません。それでも2本の線が対になって必要という点は同じですので、図ではわかりやすくするために赤と青で色分けしました。
2線式では、左右1本ずつのレールが対になっているということが重要です。

現実の鉄道のレールを見てみると、レールが2本しかない鉄道がほとんどであるため、模型でも2本の方が見た目が実感的で良いと考えるのはある意味当然です。
確かに『見た目』はそうなのですが、一方で電気的に考えると、現実の電車で左右のレールから電気を取って走っている鉄道というのはありません。
本物の電車は上空に張られた架線から電気を取り込んでいます。架線とレールで1対の電線として利用して走っているのです。
中にはレールの横に3本目のレールを敷いて、そこから電気を取っている鉄道もあります。地下鉄などではよく見られる方式で、3線式(第三軌条方式)は本物の電車でも存在しています。

ではいったいなぜ、本物の鉄道は左右2本のレールから電気を取らないのでしょうか。
ひとつには踏切が存在するからです。JRの線路の場合には、2本のレールの間は約1m程度しか離れていないので、もし両方のレールを同時に踏んづけてしまうと感電してしまいます(人間の体は電気を通します)。
第三軌条方式でも3本目のレールが地上にありますが、地下鉄などでは構造的に踏切がなく、こうした問題が発生しないから採用されているとも言えるのかもしれません。
しかし、もっと大きな問題として、左右2本のレールから電気を採ると困ることになる場所があるのです。

例えば、レールが分岐するポイント部分がそれです。
ポイントでは必ず左右のレールが同一平面上を交差することになります。左右のレールで別の電気を使うためには、この区間は絶縁しなくてはなりません。
レールだけでなく、車輪が通過する際にもう片方のレールと接触してしまってもショートが発生するので、その対策も必要です。

また車輪は円形をしているので、レールと接触する部分は理論的には1点のみです。
左右に2個しか車輪がないシンプルな車両で考えると、レールとの接点は全部で4点で、左右のそれぞれ2点ずつでしか集電できないことがわかります。
ポイントを通過する際には車輪が絶縁区間を通過することになりますから、1点のみしか集電できない瞬間が必ず発生します。
ポイントが連続する区間(駅など)だったり、レールの汚れやジョイント部があれば、2個の車輪の両方が集電できない状態になることは、実際にはかなりの確率で発生してしまいます。

また、2線式とした場合には、電気のひとつの極が車両の同じ側に並んでいる状態になっています。
ですので、レール上のどこか1点でも断線があった場合には、その先には電気がうまく届かず電圧降下や集電不良の原因になってしまいます。

この構造は模型でもそっくりそのまま同じことが言えます。 ジョイント部などはどうしても接触が良くない状態になりやすいです。しかし、存在するすべてのジョイント部が良い状態で接続できていないと、集電の効率が大きく下がってしまうのです。
集電状況を良くするためには、レールの汚れを取ったり、ジョイントの接続をしっかりさせたり、車両側でもなるべく多くの複数の車輪から集電をするような仕組みにする必要があります。
2線式は『レールが2本』という見た目を重視してはいますが、走行性能や電気的には構造的な弱点があることも事実なのです。

3本目のレールは実は架線と同じ役割

3線式にはその名の通りレールが3本あります。
中央にある1本のセンターレールと左右の2本のレールで1対の電線になっています。左右のレールは電気的に繋がっていて独立していない点が大事です。
レールが3本あると言っても、中央のセンターレールは写真のように突起状になっています。枕木の部分に点々と飛び出している突起が3本目のレールです。
近くで見ればわかりますが、遠目では見た目にはっきりと3本目のレールがあるようにみえるわけではありません。

3本目のレールが真ん中にあるというのは違和感を感じるかもしれませんが、架線を地上に敷いた状態だと考えるとわかりやすいと思います。電車の架線は空中に張られていますが、それを地上に降ろした状態です。
そう考えると、真ん中のレールから集電して左右のレールに流すという方式は、架線で走る電車と何も変わらない方式であることがわかります。

架線を使用している電車ではパンタグラフを使って電気を取り込んでいます。地上に架線があるメルクリンでは、どうしているのでしょうか。
実は列車の下側、お腹の部分にパンタグラフと同じものが付いています。これを『集電シュー』と呼びます。
集電シューはパンタグラフとは反対で下向きになっていますが、同じようにすり板と高さに合わせて追従できるような支えの部分から構成されています。
走行に合わせてセンターレールの複数の突起にぴったりと接触するようになっているのです。
メルクリンの車両は、集電シューと左右の車輪が対になってレールと接触することで、電気を取り込む仕組みなのです。

断線に強く、線形の自由度が高いことが3線式のメリット

3線式の場合には線路自体が、中央のセンターレールを中心にして電気的に左右対称になっているので、ポイント部でレールがクロスしてもショートすることはありません。 また、左右のレールは電気的には同じ極になっていて線路の裏側で繋がっているので、車両に付いている車輪のうち左右のどこか1カ所だけがレールと接触していれば電気は正常に流れることができます。
左右にそれぞれ2個の車輪がある動力車で考えると、シューがセンターレールの複数の突起と接触していて、車輪は4点でレールと接触していることになります。4点の車輪のうちいずれか1点でも集電可能状態になっていれば電気を取り込むことが出来ます。
4点すべてがレールから離れている状態というのはほとんど脱線しているような時にしか発生しませんから、極めて確実に電気を取り込むことが出来る方式です。

また、万が一どこかでレールが途切れていたとしても問題ありません。
仮にジョイントや線路の一部が切断されていたとしても、他に何カ所も繋がっているので電気が回り込むことができるため、伝達には何の問題も発生しないのです。
左右のレールが電気的に同じ役割ということは、お互いがお互いを常にバックアップしている状態なので安心です。

メルクリンではレールを切断してセンサーに使用することがあり、レイアウト上の線路を実際にズタズタに切り刻むことがあります。しかし、走行には何の問題もないのです。
たった1本レールが多いだけですが、左右のレールが2本とも代替が効かない生命線である2線式より、遙かに信頼性が高い設計になっていることがわかります。
ちなみにメルクリンのCトラックレールでは、レール同士の接続にはジョイントを使用していないので、元々レールとレールの間はわずかに離れています。
レール同士の接続にジョイントを使用せず、専用の接続端子設計になっていることも集電性能の向上に役立っています。
※メルクリンからはジョイント方式で接続するKトラックというレールも発売されています。

レールが電気的に左右対称の形であるということは、レイアウトを作る上でもメリットがあります。
2線式のレールでは下図のように、走って行った列車がそのまま逆向きになって戻ってくる形にレールを繋いでしまうと、左右の極性がぶつかってしまいショートしてしまいます。このような形を『リバース配線』と言います。
2線式ではリバース配線をする場合には、ギャップ(絶縁)を切ったり、極性の反転をしたりといった特別な制御が必要になります。

3線式のメルクリンではリバース配線は構造的に発生しません。左右対称になっているため、どのような形にレールを繋げてもショートはしないからです。むしろレールを繋げば繋ぐほどバックアップになる回路が増えて、電気的には安定します。
リバース配線は特殊な形だから、そういう風に線路を繋がなければ良いと思うかもしれません。しかし、問題なく出来ることと、出来れば避けた方がいいこと、は全く違います。

レイアウトの項目で詳細を説明しますが、リバース配線は省スペースのレイアウトを組むときや、編成全体の向きを変えるときなどにとても便利な形です。
ところが2線式では制御が必要になるため、多くのレイアウトプラン集などでは最初からリバース配線を避ける形のプランが多く紹介される傾向にあります。しかし、メルクリンのレイアウトプラン集にはリバース配線はごく当たり前に使用されています。
私もやってみて初めて気がついたのですが、避けた方が良いレールのつなぎ方があるということは、それだけでレイアウトの組み方の自由度を無意識のうちに下げていることになるのです。

例えば、私のレイアウトで、実際の線路の形を真上から見てみましょう。
中央の部分で線路が複雑に交差しています。
単なるリバース配線ではなくて、リバース内からも分岐していて、敷き詰められるだけ線路が分かれています。
こうなっていても、電気的な制御を意識せずに、列車を走らせることが出来るため、狭いスペースでもたくさんの列車を、様々な向きやパターンで走行させることが出来るのです!

メルクリンでは自分の思うように好きなだけ、何も考えずにレールをつなげることが出来ます。それはちょうどプラレールのような感覚です。

プラレールでも端の方がくるっと回った形にレールをつなげることがあります。
あの形は2線式では制御が必要ですが、メルクリンでは同じように作れます。

鉄道模型のレイアウトには一定のスペースが必要だという感覚は、線路の自由度に制約があることが原因になっている場合が多いです。リバース配線が出来、自動で向きが変えられる機能があるメルクリンなら、空いている場所を見つけてから、その場所に収まるようなレイアウトを考えることも出来るのです。

デジタルで3線式であることが走るための最大の設計の魅力

メルクリンの特長をまとめると、デジタル鉄道模型で、かつ3線式であるということになります。
このことがメルクリンと他の鉄道模型との一番の違いであり、また同時に走行性能を重視する一番大事な点でもあるのです。

メルクリンの弱点

メルクリンにも当然、弱点やデメリットはあります。
良いことばかり書いても後で困りますので、悪いことも書いておきます。

取扱店がほとんど全くない

とにかく一番困るのは、日本国内には販売店がほとんどないということです。簡単には買えないだけでなく、メルクリンを見たり触ったりする機会がないのです。
このサイトで知ってもらえたらいいなと思っているのですが、正直なところ、動画で見ているだけではメルクリンの感動はちっとも伝わらないのです。

メルクリンは鉄道模型店で購入することが出来ますが、国内でメルクリンを取り扱っているお店は、一部の大都市に数店舗ある程度です。
また、あったとしても取扱量が少ないために取り寄せだったり、店員さんも知らないことが多かったりで、大変苦労します。
海外のオンラインショップなどで個人輸入という手もありますが、こちらは故障や修理の時にはリスクが伴います。

どうしようもないことなのですが、とにかくこれが一番困ります。
私は友達だった人がメルクリンの模型店を始めてしまったので、そのお店で購入していますが、買う度に東京から大阪まで出かけています。大問題です。

日本ではユーザーが極めて少ない

びっくりするくらい少ないです。全然知られていませんし、実際に遊んでいる人となると本当に少数です。
この件に関しては、このサイトが一定の貢献を出来ればいいなと考えています。

また、日本の列車は一切ラインナップされていないということも、気になる人がいると思います。
これは割り切るしかないです。

そもそも本物の鉄道自体が、日本はけっこう特殊なのです。
JRの在来線の線路幅は国際規格では狭軌であり、世界標準軌ではありません。
HOというのは1/87の縮尺のモデル(規格上の定義)ですので、メルクリンのレールの上に国際標準軌ではない列車を乗せると、縮尺がおかしくなってしまいます。
具体的には日本のJRの在来線車両をメルクリンHOの線路幅を基準にして作ると、他のメルクリンの車両と比較して、とても大きな車両になってしまうためHO(1/87)ではなくなってしまうのです。
※JRの在来線の車両をHOの縮尺で作ると、線路幅は16.5mmにはならないということです。

また、日本国内にはJRだけでなく、様々な線路幅の狭軌が存在しています。東京の地下鉄ですら、線路の幅は3種類もあるのです。
Nゲージなどはそれを上手にデフォルメして、違和感がないように作られています。
メルクリンHOは欧米型でも、1/87では同じ線路を走れない車両(例えばスイスの氷河特急など)は発売していません。
もし日本の列車を作るとしたら、近鉄電車や新幹線などの標準軌のレールを走る車両に限られることになります。日本の鉄道模型を再現することはまず無理だと考えた方がいいでしょう。

日本の鉄道模型は日本のNゲージなどで楽しむ方が良いと思います。
欧米の列車も素敵な車両はたくさんありますので、走らせていればそれがどんな列車か知らなくてもあまり気にはなりません。気になったら実車に乗ってみたり、調べたりするのも楽しいことだと思います。

正直万人向けではない

率直に言うと、このような状況ですので、万人が簡単に買えて遊べるという鉄道模型ではないです。

しかし、だからこそ興味があって購入している人には、きちんとした情報を提供したいと思っています。
車両のことを紹介するサイトはあっても、走行や運転知識に特化したサイトは少ないので、これからもがんばっていきたいと思います。