いずれは動画にしたいと思いますが、とりあえず暫定版です
私はこれまでに人の家にお邪魔して何件もレイアウトを見たり、相談したり、調整をしてきました。
そこで統計を取ってみると、びっくりする事実があることがわかりました。
それは、CS3などの運転方法や設定、操作などに対する課題よりも、それ以前にもっと基礎的な部分である「線路の繋ぎ方」や「電気配線・工作」などに課題があるレイアウトが過半数を超えているということです。
私は、今までは、そういった部分は『説明書通りに出来ている』という前提で、運転操作などを中心に説明してきました。しかし、実態は違っていたのです。
そのため、基礎的なことについて、一度しっかりと説明する必要があると感じました。
今回はその第1回目です。
以下の説明はアナログ鉄道模型には一切当てはまりませんので、注意してください。
アナログ鉄道模型とデジタル鉄道模型は、仕組み的に全く別物です。
アナログ鉄道模型の説明とやり方は、デジタル鉄道模型には適用できませんので、特に日本の場合には、アナログのNゲージと同じだと思わないでください。
デジタル鉄道模型は別のおもちゃです。
デジタル鉄道で一番大事なことはコンピューター信号の通信
鉄道模型は電気で走っています。
このことも、きっちりと言っていませんでしたので、知らなかった人は覚えください。
電気が通じていないと列車は走りません。
その電気は、コンセントからCS3などのコマンドステーションに入り、そこから、線路を通って各車両に搭載されているコンピューターの運転士さんであるデコーダーに届きます。
車両のモーターや照明などには、デコーダー(マイコンチップ)が電気を流します。
コンセントから直接車両に電気が通じているわけではないこと、線路から直接モーターなどに流れているのではないことを覚えてください。
線路には常に最大電圧の電気が流れ続けている
線路を含むレイアウトには、常に最大電圧の電気が流れています。
列車が1台も走っていなくても、ライトなどが1つも点いていなくても、常に電気は流れ続けているのです。
もちろん列車が動いたり、ライトを点けると、より多くの電流を消費します。
しかし、全部が止まっていても、電圧は最大ボルトでかかっていて電気は流れているのです。
メルクリンの場合には、1番やHOなら19V程度、Nなら15V~18V程度の電圧が常にかかっています。
線路にかける電圧は、純正電源の本体スイッチで切り替えます。
これらの電力を列車のデコーダーに供給する電力線は線路です。
線路は列車が走行する道としての役割だけでなく、電力線としての役割も兼ねています。
電気よりもコンピューター通信の方がずっと大事で脆弱
デジタル鉄道模型の場合には、線路には電気を運ぶ電力線としての役割よりも、もっと重要な役割があります。
それがコンピューター信号の通信を行うデータ通信線としての役割です。
デジタル鉄道模型では、列車の操作や動きはすべて、コンピューター信号のデータ通信によって実行されています。
このことはしっかりと覚えてください。
コマンドステーションが命令を発信して、フィーダー線と線路という通信線を伝わって、列車のデコーダーというコンピューターチップに届きます。
これが正常にデータ通信できないと、例え電気が正常に通っていても、列車は一切走りません。
実際に列車を走らせているのは、電気そのものではなく、車両に乗っている運転士さんに該当する「デコーダー」と呼ばれるコンピューターチップなのです。
コンピューターは、通信で電子命令が届かないと動作できません。
ですので、デジタル鉄道模型では、車両のデコーダーに、正確に確実に安定してコンピューター信号を届けることが最重要です。
これは本当に基本中の基本ですので、ぜひ覚えてください。
そして、電力の伝達よりも、通信の伝達の方が、条件がシビアで断線や接触不良に弱いです。
電力が届いても、通信が届かないという状態が起こりえるということです。
線路を繋ぐ時には、いかに正確に安定して、コンピューター信号を伝えられるかをしっかりと考えて繋いでいかないといけないのです。
線路の役割は3つある
ここまでをまとめると、デジタル鉄道模型の線路の役割は3つあります。
【1】列車が走行する道としての役割(軌道)
【2】電気を供給する電力線としての役割
【3】コンピューター信号の通信を伝達するデータ通信線としての機能
3つ目が一番センシティブで大事です。
スマートフォンで想像してみよう
スマートフォンで想像してみましょう。
スマートフォンが使えなくなる原因として、思いつくのは何でしょうか?
バッテリーが切れた
そうですね。これは【2】の電力が絶たれている状態です。
鉄道模型では「集電不良」と呼ばれることが多いです。
しかし、現代のヨーロッパ製デジタル鉄道模型では、それほど集電不良は発生しません。
スマートフォンのようにモバイルで動いているわけではなく、線路も車両も品質が向上しているので、説明書通りにしっかりと使用していれば、2線式でも3線式で集電不良はほぼ感じないはずです。
もうひとつ思いつくのは
通信が切れた。WiFiや電波がない
これですね。山奥やトンネル、地下などで困った経験をした人も多いのではないでしょうか。
電力はモバイルバッテリーや車内のコンセントなどで、対処することが出来ますが、通信の電波がないとネットが使えず、スマートフォンはほとんど役に立たなくなります。
これと同じことが【3】の役割です。
線路から正常で安定した通信が出来なければ、デジタル鉄道模型は、電源は入っているが電波のないスマートフォンと同じで、何もできません。全く遊べないのです。
線路の繋ぎ方
線路は説明書通りに、正確に、確実に、きっちりと合わせた状態で繋いでください。
また、ぐらつきや傾きなどのないしっかりと安定した水平な場所に設置してください。
Cトラックならカチッと音がするまでしっかりとはめ込む。
2線式のジョイナーなら、奥までしっかりと挿し込んで、レールがきちんとつながった状態にする。
これらは列車が走るために必須の条件です。
少しでも外れていたり、歪んでいたり、傾いていたりしてはいけません。
そうなっているのなら、やり直して、修正してしてください。
このことがきちんとできていないと、この後に何をやってもダメです。
列車を走らせても走行が安定しなかったり、信号機を付けても正常に動作しなかったり、センサーが機能しなかったり、すべての不具合を引き起す原因になります。
というか、線路がしっかりできていないのに、自動運転などをしようとしている人が、実際にかなりの数いました。絶対に守ってください。
率直に言って、線路の繋ぎ方にはびっくりするほどの個人差があります。
個性や性格に左右されるのだと思います。
几帳面で丁寧にされている方もいれば、おおざっぱで手持ちの車両が走っているからいいやと判断される方もいます。
私も自分の基準と性格で「この程度だろう」と勝手に想定して話をしていましたが、それは間違っていると気が付きました。
ですので、ここで明確な【基準】を示します。
この基準に合わせて線路を繋いでください。
良い繋ぎ方
以下、Cトラックを例として説明します。
他のレールも基本的な考え方は同じです。
このように繋ぎ目がわからないくらいにしっかりと繋がっている状態が、正しい繋ぎ方です。
これ以外の繋ぎ方は全てNGです。
少しでもこの写真と違っているのなら、それは全部やり直してください。
すべてのレールがこの写真のように繋がっていないと、列車が安定して走る保証ができません。
1箇所でも、1本でも、こうなっていない場所があるのならダメです。修正してください。
悪い繋ぎ方の典型例
しっかりと噛み合っていなくて、隙間が出来ている。
これは設計上、正確に合っていないのに、無理矢理はめ込んた場合などに発生します。
少しだけ角度が合っていないとか、少しだけ距離が足りていない、または余計になっているなどの場所がある時に、どこかに無理な力がかかっていてこうなります。
ちゃんとミリ単位で正確に合うように、線路設計をやり直してください。
線路の設計は、自分の直感や目分量で行わないでください。
レイアウトソフトなどを使用して、図を描いて、その通り正確に設置してください。
オススメのレイアウトソフトは「Wintrack」です。
このソフトのOEM版がメルクリン公式からも販売されています。
有料ソフトですが、無料でも機能は試せますし、保存はできませんがレールの角度などは確認できます。
他のソフトでも、メルクリンのレールはほとんどのソフトでラインナップされていますので、それらを使って線路を計画するという癖をつけてください。
数ミリでもズレていたらダメ
許容範囲ですが「きっちり合っている状態」以外は全部NGです。
このようにわずかの隙間がある程度でもダメです。
この隙間なら列車は走るし、電力も問題なく届くかもしれません。
しかし、コンピューター信号にとっては致命的です。
途切れていることよりも、接触が悪いことが問題です。
接触が悪いとノイズが発生します。また、列車の通過で繋がったり、切れたり、通信状態が変化します。
そういうことが、デジタル信号にとっては大敵なのです。
あなたは、切れかかっているLANケーブルや、WiFiが途切れ途切れになるような場所で、インターネットを楽しみますか? しませんよね?
この状態は、まさにそのような不安定な通信状態を作り出す原因となる可能性があるのです。
Cトラックは非常に高度な数学的に計算されていて、必ずきっちりと合います。
そのように設計されていますし、メルクリンのカタログにも基本的な繋ぎ方のパターンが描かれていますので、それに従ってください。
自己流で繋げたり、いま持っている線路を適当に繋げないでください。
それがズレを生み出す原因です。
かなりオリジナリティある形に組んでしまって、どうしても合わない時には、フレキシブルレール(Kトラック)を利用してください。
CトラックとKトラックを変換するレールも販売されていますので、併用しても、普通に繋げていくことができます。
もし、どうしても、このわずかな隙間をなくせないのなら、この部分で完全にB、0両方の線を絶縁して、両側にフィーダー線を直接挿すしかありません。
しかし、それでも不安は解消できませんので、きっちりと繋ぐことを心がけてください。
線路の設置は水平な安定した場所にする
線路を設置(置く)場所ですが、ぐらつきや傾きのない、安定した水平の場所に設置してください。
HO以上のメルクリンの車両はかなり重たいです。
上に人間が乗っても大丈夫なくらい安定した水平な場所が必要です。
お座敷レイアウトで1日だけ遊ぶからちょっと敷いてみる、運転会だから会議室の机に設置してみる、といったことは、テンポラリー(その時1回だけ)だから許されるのです。
その場だけ走れば良いのであれば、布団の上に線路を敷いても走るのがメルクリンHOです。
しかし、ちゃんとしたレイアウトなら話は違ってきます。
常設する、信号機などを付ける、センサーを付ける、自動運転をする、ストラクチャーを設置するといった場合には、土台は非常に重要です。
特に3線式HOの場合は、車両底部のシューからデータ通信(集電)を行います。
もう一度、思い出してください。電気よりも安定したデータ通信ができることが大事なのです。
もし線路が揺れたり、横方向に傾いていたり、ぐらついたりすると、シューは離線を起こします。
また、その動きでシューが曲がったり、傾いたりすることもあります。
シューが離線すると、いくら電気が通じていても列車は止まってしまいます。
土台は見た目ではなく、安定度が大事です。
私のレイアウトでは、メルクリンMinitrixの線路は道床もなく、そのまま積木の上に設置してあります。
しかし、その安定度は見た目からは想像できないかもしれませんが、かなりの強度です。
動画でご覧ください。
これはまだ仮置き状態の時の撮影ですが、このように積木の橋脚の間の下に何もない区間を、人間が手で強く押し付けても、線路はびくともしません。
最終的にはさらに、橋脚と線路を固定します。
それだけの強度を持つように設計して、積木の精度や数、入れる位置などを設計しています。
決して、適当に買ってきた積木を、適当に置いただけではないのです。
下方向に配線が出来る場所であること
土台はしっかりとしているだけでは不十分です。
下方向に配線が出来ないと困ります。
信号機やストラクチャー、センサーなど、デジタル鉄道模型では多数の配線が必要になります。
デジタル鉄道模型だから、1箇所だけフィーダー線を挿したら全部動くよね!
それは単純で小さなオーバル程度なら可能ですが、ごく一部の遊び方に過ぎません。
メルクリンの解説本でも、デジタル鉄道模型の解説本でも、配線は1つの章として独立して説明されているくらい重要ですし、上で紹介したWintrackのようなレイアウトソフトでは、線路だけでなく配線も計画できるようになっています。
レイアウトの大きさが小さくても、信号機、センサー、自動運転、ストラクチャーといった、まさにヨーロッパの鉄道模型の魅力になる要素を使って遊ぶのなら、配線は多ければ多いほど安定します。
なぜなら、デジタル鉄道模型はコンピューター信号のデータ通信網で構築されているからです。
下方向に配線をするための方法として、2つ紹介します。
1つ目は、ヨーロッパではわりと標準的な方法で、線路部分は全線高架にするという方法です。
木枠などで大枠を組んで、線路の通過する部分を板などで道床を付けていきます。
この設計もWintrackのようなレイアウトソフトででき、ドイツに住んでいるのなら、そのまま近くのホームセンターに発注することも出来ます。
しかし、この記事を読んでいるほとんどの人は日本に住んでいると思いますので、この方法は大変だと感じるかもしれません。
そこで、2つ目の方法は、イレクターなどで台枠を作り、上にMDF合板などの板を2枚重ねてベースにするやり方です。
下のリンク先の記事で詳しく説明しています。
また、この工法の実物は、メルクリンストア大阪HRSのレイアウトがそれですので、お店に行ける人は見てもらうことが出来ます。
MDFを2枚重ねる理由は、安定した勾配(坂道)を作るためです。
勾配を作らないのなら、1枚でもいいと思います。
勾配(坂道)は上級者向け
勾配の話題が出ましたが、勾配(坂道)はかなり難易度が高いです。
きちんと作らないと、登れない編成が出て来るだけでなく、走行にも支障が出たり、車両故障の原因にもなります。
特に「登り始め」と「登り切った地点」の滑らかさは、極めて重要です。
自作する場合には、初心者が出来るような精度ではないので、経験がない人は、プロに依頼するか、メルクリン純正の高架橋セットを、説明書通りに正確な位置に設置してください。
こちらの記事も参考してください。
坂道が大変なのは、本物の鉄道でも同じです。
新幹線が通る前の碓氷峠(横川~軽井沢間)は、坂道が急すぎて専用機関車が連結されていました。急だから機関車を繋ぐのは、まだわかると思います。
青函トンネルはそこまで急な坂道ではありませんが、やはり専用機関車がけん引していました。理由は「長い距離、坂道が続くから」です。
勾配率が緩くても、長い距離の坂道や曲線の坂道は、機関車に大きな負担をかけます。
フィーダー線は2mに1本を目安に挿す
コマンドステーションから線路にデータを送り込むための要がフィーダー線です。
フィーダー線は、線路の長さ2mに1箇所を目安に、複数を配線してください。
単純に2mごとというよりも、ポイントデコーダーや信号機が多い箇所、ヤードなど列車がたくさん集まる場所には各線ごとに入れるなど、電力よりも、データ通信の安定性を考慮して、配線してください。
メルクリン公式としては、コマンドステーション(CS3)から出る基幹のフィーダー線には太い線を使って、レイアウトに沿ってリング型配線にすることが推奨されています。
スター型配線でも良いのですが、それだと、各配線がどこに行っているのか、後でわかりにくくなりますので、リング型が基本です。
スター型は、複数のレイアウトがある場合に、各レイアウトの配線を繋げる方式とされています。
絶対に守らなくてはならないものでありませんが、参考にしてもらうといいと思います。